も・の・が・た・り

御覧いただきありがとうございます!大学一年生で読んだ本の感想や好きなアニメやゲームの考察なんかをやっています。

蜜蜂と遠雷 第三予選 曲一覧

 

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール

バルトーク「ピアノ・ソナタ Sz.80」

いきなり、不穏で激しい音の連打で始まり、聴衆を異世界へと引きずりこむ。モダンで前衛的なところのあるこの曲からはいり、どちらかといえば甘いイメージのあるマサルの印象を覆し、ハッとさせるためだ。バルトークは生前、ピアノは旋律楽器であると同時に打楽器である、と繰り返し述べている。マサルは、マリンバ独特のリズミカルな弾力間、軽やかな疾走感を再現しようと試みる。バルトーク独特の音の展開。胸をすくような、潔い音の流れは、どこか見晴らしの良いところに出た、パット広い青空が開けたような爽快感がある。


バルトーク/ピアノ・ソナタ 全楽章 ,2009コンペティション特級銀賞

 

シベリウス「五つのロマンティックな小品」

一曲目のバルトークとはがらりと180度異なる、ロマンティックでメロディアスな小さな曲が五つ並ぶ。臆面もない、折り目正しく美しいメロディ。一曲目と対照させてメリハリをつけ、緊張を強いるモダンな曲からお客さんを開放し、ホッと休ませる目的もある。そして何より次の大曲、リストのソナタを聴く布石にしてもらう目的もある。曲そのものが十分ロマンティックなメロディなのだから、逆に音はストイックに、むしろ硬質な響きを目指す。和音はあくまでどの音も均等に、アルペジオは正確に。


シベリウス 「5つの小品(樹の組曲)op.75」全5曲 2015年3月1日 ムジカーザ J.Sibelius: 5 Pieces. op.75

 

リスト「ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178」

傑作の誉れ高いこの曲は、ソナタ形式としてはかなり異色である。通常のソナタ形式ではきっちり楽章ごとに分かれて主題部と展開部が演奏されるのであるが、この曲は全体で一続きの一楽章になっているところであろう。マサルはこの曲を聴くたびに、周到に複線の張られた、巧みな構成の長編小説のようだと思う。曲はー物語は、さりげなく、謎めいた場面から始まる。これは何世代もの因果が絡み合う悲劇。様々な人々の思惑が思わなぬところで交錯する。現在の状況がひとしきり語られた後で、もう一つの主題が現れる。やがて、偶然は何度も彼女と男を引き合わせる。


2012ピティナ特級グランプリ/菅原望 リスト:ソナタ ロ短調

 

ショパン「ワルツ 第十四番ホ短調

一時間のリサイタルの、アンコールというニュアンスで選んだ曲。ロマンティックでちょっとほろ苦く切ないワルツ。さりげない曲。別れの挨拶。幕切れはあっさりとくどい終わり方は嫌だった。


Chopin - Waltz No.14 E minor, Op.Posth (Evgeny Kissin)

 

風間塵

サティ「あなたがほしい」

洒落さを漂わせる。浮き立つような軽快なワルツ。シンプルなメロディは、たちまちコンクール会場をパリの外囲等に変えてしまった。科℉秀グラスのぶつかる音や、喧騒が聞こえてきそうだ。


サティ: あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴー) Pf.近藤由貴:Kondo,Yuki

 

メンデルスゾーン「無言歌集より 春の歌 イ長調 Op.62-2」

やがて少しずつリタルダンドしてーいきなり次の曲になった。なんとまあ、鮮やかな場面展開。いきなり場面は、匂い立つ花園になったのだ。あでやかに咲き誇る花が、目に浮かび、鳥が歌うさままで見える。なんと視覚的なー色彩感溢れる演奏だろう。


■メンデルスゾーン 無言歌 「春の歌」/ 近藤由貴 Yuki Kondo

 

ブラームスカプリッチョ ロ短調 Op76-2」

融通無碍に変わるタッチ。これまた小粋な、小品である。ものがなしさと、かすかなユーモアすら湛えたトリッキーな演奏。青みが勝った風景。どこか静かな子さんの館で、広間で民族衣装を着て踊る男女だろうか。トウで踊り続ける女性の姿が目に浮かんだ。


Brahms - Capriccio, Op. 76, No. 2, in B minor

 

サティ「あなたがほしい」(二回目)

「えっ」と声にならない声が上がるのがわかった。舞台上の風間塵は、無邪気な微笑を浮かべたまま、軽やかにサティをひき続けている。

 

ドビュッシー「版画」

たちまち情景が変わる。「版画」の一曲目。「塔」。くすんだ色の、黄昏の集落。ねっとりとした、亜熱帯の味なの湿気。草のにおいや、熱風のにおいまで漂ってきそうな光景。古びた塔。情動、とでも呼ぶのだろうか。心の底の、普段は深く暗い場所に湛えられた水が、目に見えない力に揺さぶられ、ゆっくりとうねる。


ドビュッシー/版画 1.塔 /演奏:金田真理子

 

そのまま、「版画」の二曲目「グラナダの夕べ」へと移行する。いつのまにかイスラムのにおいのする世界へと運ばれる。ハバネラのリズム。黒髪の女たち。扇を手に舞う女たち。これまた、身体の底にある情動の海から、たぶんと何かが首をもたげる。やるせない、遅い午後。何か大きなエネルギーの壁のようなものが舞台からせり出していて、文字通り座席に縫い付けられたように動けないのだ。喉はカラカラで、呼吸すら憚られる。


ドビュッシー/版画 2.グラナダの夕べ /演奏:金田真理子

 

そして、また情景は変わった。「版画」、三曲目「雨の庭」。突然、封っと気温が下がった。それまで客席を照らしていた茜色の光は消え、肌寒いフランスへと運ばれたのである。ポツポツと雨が降り始めた。やがて、風は強くなる。子供たちは、雨を避けて走り出す。


ドビュッシー/版画 3.雨の庭/演奏:金田真理子

 

ラヴェル「鏡」

すぐに「鏡」に入った。この子の頭の中では、「版画」と「鏡」はつながっているわけだ。鏡に映った五つの風景。蛾ー悲しい鳥たちー海原の小舟ー道化師の朝の歌ー鐘の谷彼の描く風景は大きい。イメージを思い浮かべるという程度ではなく、丸ごと風景を舞台の上に再現して見せているかのようだ。


ラヴェル/鏡 1.蛾/演奏:金田真理子


ラヴェル/鏡 2.悲しい鳥たち/演奏:金田真理子


ラヴェル/鏡 3.海原の小舟/演奏:金田真理子


ラヴェル/鏡 4.道化師の朝の歌 /演奏:金田真理子


ラヴェル/鏡 5.鐘の谷/演奏:金田真理子

 

サティ「あなたがほしい」(三回目)

曲を繋ぐプロムナードとして、軽快なメロディがほっと観客に一息つかせる。

 

ショパン即興曲 第三番ト短調 Op.51」

 風間塵の軽やかなタッチ。まさに、彼が今即興で生み出したかのようなメロディ。


ショパン/即興曲第3番 変ト長調 ,Op.51,CT45/pf.佐藤圭奈

 

サン=サーンス「アフリカ幻想曲 Op.89」

 当時のヨーロッパの人々が「アフリカ」という鳥に抱いていたエキゾチシズムが偲ばれる特徴的なメロディの曲で、実際、チュニジア民謡のモチーフも取り入れられているという。元の曲ではヴァイオリンが奏でる緊張感のあるイントロをトレモロで引き始めた。低音部で、左手がテーマとなるメロディを奏でる。さらに重層的な和音が、クレッシェンドしながら主旋律を繰り返す。そして、高音部で真っ向勝負に入るテーマ。華やかだ。キャッチーだ。心地よい、エキゾティックなメロディ。小気味よく繰り返されるメロディ。いよいよ曲はクライマックスに向かう。なんて大きな大人の。巨大なエネルギーを持つ物質があそこにあって、四方八方に放射されているように感じる。まるでライブハウスでフォービートの曲を聴いているかのようなコンクールとは無縁の感情、衝動、快感。


Concert Arabaesque : Africa, Fantaisie op 89, CAMILLE SAINT SAËNS, Piano MAROUAN BENABDELLAH

 

 

栄伝亜夜

ショパン「バラード 第一番ト短調 Op.23」

揺蕩うの時の流れのそこにしずんでいるさみしさ、普段は感じていないふりをしている、感じる暇もない日常生活の裏にぴったりと張り付いているさみしさ。避けてきたはずの、根源的な「さみしさ」を歌う。生き物たちの長い長い歳月から見れば一瞬にしか思えぬ人生の幸福と不幸を歌う。


PTNA2015コンペ全国決勝/G級 金賞 沢田蒼梧 ショパン/バラード第1番 ト短調 Op.23

 

シューマン「ノヴェレッテン Op.21 第二番ニ長調

波が弾くように、静かにバラードが終わった。一転、華やかな曲が始まる。不意に涙が込み上げてきた。なんで?ああ、きっとこれは、一曲目のバラードから亜夜の音を聴いているうちにしんしんと降り積もったものが、堤を超えて溢れてしまったのだろう。


シューマン: 8つのノヴェレッテ,Op.21 2. 第2番 ニ長調 Pf.藤井隆史:Fujii,Takashi

 

ブラームス「ピアノ・ソナタ 第三番ヘ短調 Op.5」

ブラームス的なものはすべて詰め込まれている。音の重厚さ、曲の構えの大きさ、圧倒的なロマンティシズム。ダイナミックなメロディの導入部。そして、彼女は我々のこれまでの人生の軌跡を、さりげえなく、厳かに語り始める。静かな語りは第二章に入っても続く。淡々と語られる無数の人生。第三楽章。がらりと変わる曲調。ドラマティックなスケルツォ。第四楽章で、彼女は内省する。自分の小ささ、愚かさ、幼さを痛感する。最後の第五楽章。フィナーレに向けて、じりじりと上り詰めていくメロディ。亜夜は最後の和音を弾いた。


ブラームス:ピアノソナタ 第3番 ヘ短調 作品5 全楽章 / Brahms:Piano Sonata No.3 Op.5 F minor (Live) 小瀧俊治

 ドビュッシー「喜びの島」

鮮やかなトリルから始まる。眩いばかりの歓喜と高揚。多幸感に打触れた、きらびやかな曲である、いよいよ、クライマックスにさしかかった。演奏する喜び、サイン王を聴く喜び、引き継がれていく喜び。最後のフレーズ。高音部に駆け上がり、そして、一息で降りる。


2012PTNAグランミューズ入賞者記念コンサート 浜崎友恵